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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)68号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも、原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、引用例との対比において相違点の判断を誤つた違法があり、取り消されるべきであると主張するが、その理由のないことは、以下に説示するとおりである。すなわち、

当事者間に争のない本願発明の要旨並びに成立に争いのない甲第五、第六号証及び第十号証を総合すると、本願発明は、圧縮喞子が往復運動原動機により、特に電磁気的又は電気力学的往復運動原動機によつて往復運動される特に小型冷凍機に用いられるような喞子圧縮機に関するものであり、この種往復運動原動機では、衝程が不定で残留瓦斯クツシヨンによる著しい死室(隙間)を生ずる欠陥があつたところ、本願発明はかかる死室が生じること、及びこれに伴う損失出力を避けること等を目的とし、この目的を達するため、磁界内で制限装置なく自由に週期的に振動する電動子及びこれと連結せる喞子を有するもの、特に小型冷凍機のための電磁式喞子圧縮機において、喞子は圧縮の際、その端位置において、気筒端を超えるか、又は気筒端に一致し、喞子衝程の上方位置に弾機をもつて負荷せる薄円板(排出弁)を開いている気筒端面の被覆として設け、この薄円板自体は、種々な負荷の下に変ずる喞子の道程の影響を受けて、気筒頭の後方に接続した室において自由に逃げうることを特徴とする構造とし、これにより所期の目的を達したものであることを認めることができる。

他方、成立に争いない甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例は昭和八年九月十二日実用新案出願公告にかかる「真空喞筒」に関する考案であるところ、高度の真空を成生せしめることを目的とし、この目的達成のための構造として、真空喞筒において、喞子は、喞〓内の空気を圧縮排除する際、喞〓端において、これを超えて、喞〓蓋と喞子との間隙を消滅せしめ、喞〓端には、発条をもつて負荷せる喞〓蓋が開いている喞〓端面の被覆として設けられ、この喞〓蓋は、喞〓に接続した室、すなわち、油槽で自由に可動するよう組み立てられていることを特徴とする構造が開示されていることが認められる。

以上認定の本願発明と第一引用例の各構造及びその構造に示された技術思想を対比すると、本願発明と第一引用例記載のものとは共に、気筒内に死室を生ぜしめないことによつて、気体の吸入効率を向上させることを目的とし、このため、気筒内の気体を喞子で圧縮し、この圧縮気体を気筒端面の被覆として設けられ、かつ、気筒端に接続した室において可動する弾機をもつて負荷せる排出弁で送り出すに際し、喞子は、気筒端位置において、気筒端を超えて、排出弁と喞子との間隙を消滅せしめる構造とした点において、その構造及びその技術思想を同じくするものということができる。もつとも、本願発明は小型冷凍機のための衝程量の一定しない電磁式喞子圧縮機に関するものであるに対し、第一引用例記載のものは高度の真空を成生せしめることを目的とする真空ポンプであり、その機構上衝程量が一定したクランク駆動方式を前提とするものであること(前掲甲第四号証の図面に徴し明らかである。)が認められるが、両者におけるこの点の相違が前段認定の両者の構造についての技術思想に原告主張のような根本的な差異をもたらすものとはとうてい認めがたい。

しかして、本願発明と第一引用例とは、共に、気筒内での喞子の往復運動により、気体を圧縮排出する機構に関するものである点において、技術分野において関連し、かつ、成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)によれば、その「発明ノ性質及目的ノ要領」の項に、「本発明ハ、……電磁「コンプレツサー」ニ係リ其ノ目的トスル所ハ廻転運動ヨリ直進往復運動ニ変換スル一切ノ機構ヲ省略シ得テ「コンプレツサー」トシテノ機構所要空間ヲ縮少シタル喞子無衝撃ノ電磁「コンプレツサー」ヲ得ルニアリ」と記載されていることに徴すれば、圧縮機において小型化を図る目的をもつて電磁式を採用することが出願前公知であることは明らかであるから、この電磁式圧縮機につき、その吸入効率を向上させるために、第一引用例記載のものの前記の構造を転用して本願発明のものとすることは、当業者の容易にできる程度のことと認めるのが相当である。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないというほかはない。よつて、これを棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

磁界内で制限装置なく自由に週期的に振動する電動子及びこれと連結せる喞子を有するものにおいて、喞子は圧縮の際その端位置において気筒端を超えるか、又は気筒端に一致し、而して喞子衝程の上方位置に弾機をもつて、負荷せる薄円板(排出弁)が開いている気筒端面の被覆として設けられており、この薄円板自体は種々な負荷の下に変ずる喞子の道程の影響を受けて気筒頭の後方に接続した室において自由に逃げうることを特徴とする特に小型冷凍機のための喞子圧縮機。

本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項掲記のとおりであるところ、昭和八年実用新案出願公告第一三、六三一号公報(以下「第一引用例」という。)には、往復運動する喞子を備え、気筒の圧縮側端部には、その被覆として発条により該気筒端に押圧される喞子蓋が設けられた真空喞筒が示され、この真空喞筒は、喞子の圧縮行程において気筒内の空気を圧縮し、喞子蓋を発条に抗して開き、この喞子蓋が排出弁として作用して空気を排出し、喞子がなお前進して喞子蓋に衝突する位置に達すると、気筒内の空気が全く排出され、高度の真空を生ずる作用、効果が記載されている。なお、図面並びに作動の説明から、喞子が喞子蓋に衝突した位置からさらに前進し、喞子自体が圧縮側気筒端を越えて前進し、喞子蓋を発条に抗して後退させるものであることも明らかである。

また、特許第一四五、一七〇号明細書(以下「第二引用例」という。)には、気筒側部に排出用スリツトを設け、圧縮側気筒端を頭蓋で塞ぎ、この頭蓋の一部に発条で負荷された排出弁を設けた気筒内に、電磁力の変動により往復駆動される喞子を配置した電磁式圧縮機が記載されているが、その喞子の衝程が負荷によつて多少変化するものであることは、その構成上明らかである。そこで、本願発明と第一引用例のものとを対比すると、両者は、喞子、気筒並びに発条を負荷した排出弁の構成で一致し、喞子が圧縮側気筒端を越えて前進し、排出弁に衝突してこれを後退させ、各衝程毎に気筒内の気体を排出弁を経て完全に排出し、気筒内に死室を生ずることなく吸込効率を向上させる作用、効果においても一致するが、本願発明が、喞子を電磁振動子に連結し、これによつて自由な衝程で喞子を駆動する特に小型冷凍機のための喞子圧縮機であるに対し、第一引用例のものは、喞子の駆動機構については明記されていない真空喞筒である点で差異が認められるが、両者は、共に気筒内の気体を喞子で圧縮し、この圧縮気体を排出弁を経て送り出す作用を行なうものであり、また、本願発明が「特に小型冷凍機のための圧縮機」と限定してはいるが、圧縮機として小型冷凍機に適する独特の構成はなく、右のように限定した点は単なる用途の例示に過ぎないものと認められるので、前記相違点に関しては両者に発明としての差異はいずれも認められないし、両者の他の相違点である喞子の駆動方式についてみても、第一引用例には、前記のように、喞子の駆動方式については、なんらの記載はなく、技術常識上はクランク駆動装置によつて喞子を駆動すると考えるのが普通ではあるが、他の駆動方式の採用を不可能とする理由は全く示唆されていないばかりでなく、第一引用例には、喞子が圧縮側気筒端に達した場合に気筒内の空気を完全に排出し、したがつて、気筒内に死室を生ずることなく、さらに喞子が前進すると、喞子自体によつて排出弁をその負荷発条に抗して後退させるものであることが示され、これは各衝程ごとに気筒内に死室を生ずることなく吸込効率を向上するには、喞子の圧縮行程が圧縮側気筒端に完全に一致するものであれば足りる事実から、喞子の衝程が圧縮側気筒端に完全に一致せず、何らかの理由又は必要により、喞子がさらに前進するものであつても、死室を生じない作用には変りなく、また、その場合に気筒蓋が気筒に固定されたものでなく、発条で負荷された排出弁の形式になつているので、喞子の衝突によつて破損を生ずるなどの作動上の支障がないものであることを示唆するものと認めることができる。したがつて、本願発明は、第一引用例に比べて喞子の駆動を電磁力で行なつた点だけが異なるものということができる。このように本願発明は、第一引用例とは喞子の駆動を電磁力で行なうようにした点だけが相違し、この相違点は第二引用例に示されたとおり圧縮機において既に公知であり、また、全体として、本願発明は、引用例に記載並びに示唆された以外の格別の作用、効果を奏するものではないから、格別発明力を要するものと認めることができない。したがつて、本願発明は、前記公知の技術内容から当業者が容易に推考できる程度のもので、同特許法(大正十年法律第九十六号)第一条の発明を構成しないものである。

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